地球の磁場で発電してみました!(1831年のファラデーの実験)

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 今回の再現は「地球の磁力で発電する実験」です。ファラデーは1831年8月29日の日記に「電磁誘導」の実験成功を初めて書いています。彼は「磁力の作用で電流を生み出す」ことに成功しました。そこから出てきたアイディアが「地球も磁石なんだからその磁力で発電できるのではないか」というものでした。
 彼は実験日記を詳細に付けていて『Faraday's Diary』全7巻として出版されています。今回,その全巻を仮説実験授業研究会の高橋信夫さんからゆずっていただくことができました。その日記から,彼の地磁気発電の実験を再現してみました。
 
 これが日記にある実験図です。地磁気の南北に対して,左右にコイルを回転させるように動かします。このコイルに感度の良い検流計をつないで,誘導電流を確認したのです。
 ファラデーは電磁誘導が「磁力線を電線で横切ると電流が生じる」と,正しく原因をつかみました。地球の磁力線は南北に走っていますが,それは地面に平行ではありません。地球の地面の中の方に傾いています。磁力線の水平面に対する傾きを,地磁気の「伏角」といいます。つまり磁力の元は地面の中です。たとえば今の日本の東京付近では伏角は49度ですから,磁力線は地面に対して北向きに49度傾いて斜めに刺さっています。
 そこで,図のような位置で電線を回転させると,地球の磁力線を電線が横切ることになります。そのとき電流が生じるはずです。


 私の実験装置です。
 
 まずは実験室の地磁気の方向を方位磁石で決めます。地球の磁力線は伏角だけでなく,南北も地図上の南北線とは一致していないで,少しずれています。これを「磁気偏角」といいます。偏角は磁石が北を指す方向で,地図上の真北とは違います。偏角は現在の東京で西に6度ぐらいです。
 その地磁気の線に沿って赤いテープを貼りました。



 そして電線にはS-cable(パスカル電線)を使いました。この電線はすでに過去の記事で報告していますが,高感度で電磁気の実験ができる優れたケーブルです。
 地磁気は弱いので磁力線の数は通常の磁石に比べて大変少ないのです。その少ない磁力線をできるだけたくさん横切るには,できるだけ直径の大きなコイルでたくさんの電線を巻かないと,発生した電流を感知できません。それをこのケーブルで解決しました。私の実験ではケーブルを4回巻き(普通の電線なら40回巻き相当)して,直径35cmのコイルにしています。


 ではファラデーのやったとおりに実験してみましょう。
 最初はケーブルを左右,つまり東西に行ったり来たり倒します。



 検流計の針が左右に動きますね。ファラデーも予想通りの結果を日記に書き残しています。


 さらに,彼はもっと大きな実験を思いつきます。
それは「川の水が磁力線を切れば発電できるのではないか」という途方もないものでした。
 彼の1832年1月12日の日記を見ましょう。
 
 川の流れが東西ならば,南北に電線を張って川の中に電極を入れます。すると「電極→電線→反対の電極→川の水→もとの電極」の1周したコイルができます。このコイルは川の水ですから,動きます。そのとき磁力線を横切るのです。川は流れ続けるので,ずっと磁力線を切り続け,発電し続けるはずです。
 彼はロンドンのテムズ川にかかるウォータールー橋で実験しています。
ウェータールーブリッジ
 これが現在のロンドンです。彼はなぜこの橋を選んだのでしょう。私は地図を見ていてそれが分かりました。それはこの橋が当時の磁力線の方向に最も一致していたからでしょう。
 実は,地磁気の偏角は常に変化していて,ファラデーの頃は,本当の北より西側に25度ほどずれていました(現在のロンドンは西に3.5度ほどしかずれていません)。それを地図に当てはめたのがこの写真です。見事にウォータールー橋は,ファラデー当時の地球の磁力線の方向と一致していますね。今やるならその右隣の橋の方が,現在の磁力線の方向に近いでしょうね。
 さらにテムズ川は海に近いので,海水が潮の干満で流れ込んできて,時間によって流れの向きが変わるのも,実験には都合が良かったことでしょう。さらに海水の混じった水は,真水よりもずっと電気を良く通します。
 彼の頭にはこんな実験風景が浮かんでいたはずです。

 机に付いた側のケーブルが川の水だとすれば,流れと共に針が動くはず!


 現在の実験現場です。ファラデーが実験したのは1815年完成の橋ですが,そのときの橋は1934年に解体されて,現在の姿に作り直されました。
ウォータールーブリッジ東岸


 ファラデー当時のウォータールー橋。現在の橋よりアーチの間隔は狭いですが,川岸から見た風景は面影が残っています。
初代ウォータールー橋
Art UKより)
 ファラデーはこの橋に700フィート(213m)のケーブルを渡し,銅板の電極を川の両岸から水中に入れました。そして川岸の高い建物の中に,電線を引き込んで検流計をセットしました。
 日記によれば,1月12日の朝は川の流れは西から東でした。
 そして夕方には東から西に変わったと書いてあります。


 さて,実験結果はどうだったでしょうか。


 「水からはいかなる誘導電流も得られなかった」
 実験は失敗に終わったのです。
 彼はあきらめずに,電極を白金に変えたり,ケーブルの張り方を変えたりして翌日も試しています。
 しかしやはりダメ。
 彼の考えは間違っていたのでしょうか。いえ,そうではありません。現在の計算ではこれで作れる電流は,当時のファラデーの検流計ではまったく感知できないほどのわずかなものでしかなかったのです。
 先日の講座の金沢工業大学の中田教授によれば,発生する電流は66μA(マイクロアンペア)(100万分の66アンペア)。ファラデーの検流計が感知できた最小電流は100μA程度だったそうです。あと2倍の感度アップが出来ていれば、検出できたかもしれません。惜しかったですね。ちなみにこの方法で60Wの電力を得るには川の流れが700m/秒必要だということです。これは音速の2倍以上!マッハ2です。ジェット戦闘機の最高速度に近いものです。
 超音速で流れる川があれば,白熱電球がつくぐらいの電気が取り出せるでしょう。
 ファラデーの壮大なアイディアは失敗しましたが,やってみなくちゃ分からない精神はすごいですね。

 ところで今回使った島津製作所の検流計の仕様をしらべてみると,目盛りは±70μAで「電流感度:3.5×10-6A =3.5μA」となっているではありませんか!これは手持ちの検流計で川の流れによる誘導電流が十分検知できるのではないかということです!うーむ,学校にある測定器で十分実行可能だったとは.....
 日本で行うなら,南北方向に橋が架かっていて,流れが東西方向であることですが,私の住む地域では川は北の山から南の海へ流れるので,これに該当する川を見つけるのは困難です。

 川で大規模に実験するのは大変ですが,教室でのこの再現実験は,目に見えなくても私たちのまわりには磁力線が張り巡らされていて,それを横切ると電流が生じることを見事に見せてくれるのです。

追記

 その後,実際に川で実験してみました。
・第1弾はこちらから→クリック
・完結編はこちらから→クリック
果たしてファラデーの考えは正しかったのか?

参考文献

1.中田修平「ファラデー「電気の実験的研究」」(原著から学ぶ科学技術講座第8回テキスト),2018.12.22
2.『Faraday's Diary Vol.I』(初版1936,ペーパーバック版2008)
1820~1832の日記をまとめた巻です。



3.ファラデー『電気実験 上巻』(古典化学シリーズ10,内田老鶴圃,1980)
4.Giles Lipscombe, Jordan Penney, Roger Leyser, Hayley Jane Allison,「A5_4 Water Under the Bridge」,University of LEICESTER Physics Special Topics,2014.11.14

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コメント

  • 壮大です

    おもしろいです。川の実験は壮大な失敗だけど,スケールがでかくてセコセコしていない。


  • 大科学実験

    数年前のNHKの「大科学実験」で地磁気と超強力磁石に関する面白い実験を見たことがあります。ナレーターはたしか細野晴臣さんだったかな。


  • とてもおもしろいです

    川の実験がおもしろいですねえ。ただ、中田教授がなぜ60Wという大きな電力のことを持ち出したのでしょうか。そんな電力を生み出すのはパスカル電線と地磁気でも無理でしょうから。
     学校で使うような倍率を変えられる検流計を使って急流でやってみるとどうなるのでしょうか。そんなに大きな川でなくても行けそうな?気もします?
    ただ、川幅が大きいと電線の電気抵抗も気になります。
    そもそも地磁気によって仮に水の中のイオンが動いたとしても、電極のところで電子の受け渡しが起こるのかどうかも気になりますね。
     しかし、着想そのものはとてもおもしろいです。


  • 実験できそうです

    なんと今回使った島津の検流計でも十分検出可能!
    ということは大抵の学校にある普通の検流計で十分検出範囲だということです!
    川の実験だれかやってみませんか?
    流れが東西で,橋が南北にかかっていることが条件です。
    Googleマップを眺めてたら,自宅から行ける範囲で条件に当てはまる橋があるなあ。。。。これはやるしかないか???


  • わくわくします

    このお話、とてもわくわくします。その場所の写真も見ていると、壮大な実験が目に浮かぶよう。



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