原著から本質を学ぶ:ファラデー「電気の実験的研究」

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 12月22日(土)に金沢工業大学で行われた,ファラデーの原著を学ぶ講座に参加してきました。今回はファラデー著『電気の実験的研究(全3巻)』(1839~1855)を読みます。日本語訳は第1巻しかないので,全体像が分かることを期待していきました。
 
講師は電気工学科の中田修平教授です。


 
 ファラデーは「力線」という考えを使って,電磁気現象を解明していきました。彼が考えたのは,電気や磁気の影響は「隣へ隣へと順々に伝わっていく」というイメージです。当時はアンペールなどが作った「電気力学」が盛んで,それはニュートンの引力の法則をモデルにしたものです。電気力学では電気力や磁力は物体から物体へ何も介さず直接作用するものとしています。太陽と地球の間の重力が,真空の宇宙空間でも伝わることから考えた理論です。
 それに対して,ファラデーは「力が伝わるには伝えるものが必要だ」と考えたのです。


 講座では残念ながらファラデーがいつ「場の概念」を発見したかは分からないということでしたが,私にはいくつかヒントを得ることができました。
 それはまたいずれ書くことにします。


 会場に飾られていたのが,ラウル・デュフィによって1937年に描かれた壁画「電気の精」の複製です。
 今回の話に関係ある部分を拡大しました。
 


 
 電気に関わった科学者や発明家が時代順に描かれています。本物はパリ市立近代美術館に所蔵されていて,10m×60mの巨大な壁画です。もとは1937年にパリで開催された世界博覧会の電気館のために描かれたのだそうです。ネットでは全体の写真を見ることができます。
 今回展示されたものは,1953年にパリの版画工房ムルロー工房の設立40周年を記念して制作されたリトグラフです。壁画を細部まで忠実に表現し1/10縮小サイズの10枚パネルセットで,当時350部限定で制作されたそうです。ぜひパリへ行って巨大な本物を見たいですねえ。


 講座の後は図書館です。


図書館内


ファラデーの「電気の実験的研究」の初版を見せてもらいました。かなり傷んできていて修復が必要ということです。









世界最初の電気モーターの図。



今回も今後の研究のヒントをたくさん得ることができました。

この記事へのコメントから

画像付きのため本文に引用しました。
・入江 洋一さん
 こんな写真を撮っています。ロイヤル インスティチュートの地下の博物館にファラデーの実験室が再現?してありました。(再現なのか,そのまま残したのか,分かりません)
後ろに見えるのは電池ですかね。
ファラデー博物館

・うみほし
講座でもこの実験室の解説がありました。後ろの2つの四角いものは電池です。しきりのある容器に稀硫酸を入れて,亜鉛と銅板を各部屋に射し込んで直列つなぎのボルタ電池にします。電池の手前のものはモーターですね。

・兼子美奈子さん
ジェーン マーセット著「化学対話」の図にあるボルタの電池です。
「化学対話」の初版は1806年なのですが、これは1817年の改訂版です。
 初版には、出てこなかった電気の話が出てきています。gutenberg で検索すると一巻、二巻全部が読めます。この図は第5章 on the chemical agencies of electricity の最後に載っています。
初版は、大体訳したのですが、こちらは印刷を終えたばかりで、まだ訳していません。
 ただ、次の6章に電気のプラスとマイナスが結合して熱素カロリックになるなんて話が出てきます。
 電気を知ったばかりの当時の人々の思いに触れるのも面白いです。
 「化学対話」は、ファラデイが本屋さんの徒弟時代に読んで化学の実験をしていた本です。
 マーセットさんとファラデイさんは、その後、マーセットさんが亡くなるまで交流を続けています。
ボルタ電池

・うみほし
 電池の仕組みがよく分かる図ですね。ありがとうございます。
・うみほし
 講師の中田教授も言及していたのですが,「ファラデー以前から磁力線を書く人はいた」というので,調べてみました。
 英語版Wikipediaには1644年のデカルトの図が載っていました。
デカルトの磁力線
 デカルトは地球から出る磁力線を描いたのですが,磁気力はねじのような微粒子の性質と考えたようです。線の形自体は磁石の周りに鉄粉をまいた時のパターンによく似ています。
 これが載っていたWikipediaの記事によると,「1269年にフランスの学者Petrus Peregrinus de Maricourtが,鉄の針を使って球状の磁石の表面に磁場を描いた」
「得られた磁力線が2点で交差していることに注目し、彼はこれらの点を「極」と名付け、地球の極と同じように命名した。」
「磁石がどのように細かくスライスされていても、磁石には常にN極とS極の両方があるという原則を明確に述べています。」
W.ギルバート(1600年『磁石論』)でも彼の名前が出てきます。磁石研究の先駆者ですね。多分これが最古でしょう。
  ペトリュス・ペレグリヌスが記録にある最古の記録のようですが,残念ながら彼が描いたという図は見つかりませんでした。

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