川の流れは地磁気で発電しているか?(完結編)

Tag: K1Ⅱ 電磁気学 ファラデー 地磁気 電磁誘導 科学教育 科学史 理科教材

はじめに

イギリスの科学者マイケル・ファラデーは1831年に電磁誘導を発見しました。電磁誘導とは「電線が磁力線を横切ると電流が生じる」という現象です。これは磁石によって電流が作れる「発電の原理」の発見でした。そのときファラデーは「地球だって磁石なんだから,地球の磁力線でも電磁誘導が起こるはずだ」と考えて実際に実験してみました。それについては昨年の記事で「ロンドン市内を流れるテムズ川での実験」として紹介しました。残念ながらファラデーの実験は測定器の限界でうまくいかなかったということなのですが,私たちは現代の機器なら十分成功の可能性があるだろうと考えて再現実験を行うことにしました。
 1回目は2019年3月9に浜名湖畔の宇布見橋で行いました。その記事でも紹介しましたが,実験はうまくいったものの,水の流れが一方向しかできなかったので,「本当に水の流れで電磁誘導が生じたのか」にわずかな疑問も残りました。
 そこで今回は,新たに別の場所で再実験です。今回の実験場は川が直接海につながっている場所を選びました。

はまぼう橋


 事前の下見でも満潮で流れが遡っていたので,大丈夫だろうとここに決定しました。

 実験は2019年3月23日に実施。満月期の大潮です。
 近くの舞阪港の潮位変化はこのような実測値でした。
舞阪港潮位20190323
 私たちは午前と午後の潮の変化に合わせて実験を行いました。

引き潮の実験

朝10頃現場に到着。橋のまん中から電線を南北に広げていきます。
前回の橋よりも10m短くなったので,ケーブルを切って長さを縮めました。半田付けもやり直して,前回見られたメータとの接触不良を無くしました。

2019/03/23 09:55:39
PENTAX K-1 Mark II
irix 15mm

電極を川に投入します。

方位磁針でチェック。ケーブルは南北方向に張っています。

午前中は引き潮なので川の水は東の海の方向へ出ていきます。
フレミングの右手の法則を当てはめて予想すると,こんなふうに電流が生じるはずです。つまり橋の上では電流は北から南に流れるはず。はたして実験結果は?


 これが実験結果です。水の流れは前(西)から後ろ方向で,予想通り電流は北から南(左)に流れています。

2019/03/23 10:14:38

こちらは前回の結果です。
auto-OrVjFx.jpg
2019/03/09 16:11:14

 前回の浜名湖の実験では水の流れはこれとは反対方向で,電流も今回とは反対向きに流れていました。2つの実験を合わせると「水が反対に流れると,生じる電流の向きも反対になる」ということができます。

動画で実験の全容も見てください。



前回同様,この検流計では針が振り切れてしまうので,感度の低いメーターでも測ってみました。
 このメーターの目盛りでは左向き(南向き)に3~5マイクロアンペア程度。しかしこの値が本当なら最初に使った検流計が振り切れるはずがありません。最初に使った検流計は島津理化機器のもので信頼性があります。
 しかしこのメーターは通販で買った安物で,「電流の向きはあってるね」程度のものです。もともと値段が違いすぎるので比べちゃいけないですね。

そこでさらに正確な電流値を知るため電流計も使ってみました。これは島津理化機器の電流計で精度は信頼できます。

だいたい1~1.5ミリアンペアの範囲で針が動いていました。
1000マイクロアンペアということになり,さっきの安物メーターとはぜんぜん一致していません。これなら検流計が振り切れたのも納得です。



実験結果が分かったのでひとまず撤収です。
カバもお手伝い~。

 前回の実験と合わせると「川の流れで電流が生じる」というファラデーの考えは正しいと思われますが,やはり念のため同じ場所で午後の満ち潮でも実験します。
 それまで時間があるので,一休みして近くの福田港で生きの良い海鮮料理を食べに行きました。

満ち潮の実験

さて,適当に時間を潰した後,いよいよ川の流れが反転したときの実験です。
すっかり夕日となった橋。

今度は満ち潮です。午前中よりも水位が上がっているのが分かりました。ファラデーの予想通り電磁誘導が水の流れで生じているなら,午前中とは反対に橋の上の電流は南から北に流れる予想です。果たして!?

これが実験結果です!
水の流れは後ろから前方向に変わり,予想通り検流計は午前中とは針の向きが反対になっています!
やはり川の流れが磁力線を横切る向きで,生じる電流も反対になるのです。

2019/03/23 17:42:24


実験したときは冬の冷たい西風が強く,風による水面の波と風に逆らって上ってくる潮の流れがぶつかっている様子が見えました。
最初は針が振り切れたままになっていたのですが,満潮が近づき上げ潮が衰えてきたためか,実験終盤は針が上がったり下がったり動くようになりました。



日没と共に,実験も終わりにしました。

考察

 さて,実験を振り返ってみて一番予想外だったのは,前回も今回も検流計の針が振り切れたことです。ファラデーの失敗から「電流は極めてわずかなのだろう」と考えていたからです。
 そこで今回は感度の低い電流計も持参して電流値を測ってみました。結果は1~2ミリアンペア=1000マイクロアンペア程度ということになります。試しにLED豆電球をつないでみたのですが,残念ながら点灯しませんでした。そこまでの電流ではないことは確かです。
 一方,ファラデーの検流計の感度は文献1と4によれば100マイクロアンペアだったそうなので,私たちと同じ程度の実験結果なら,十分電流が検知できたはずです。そうなるとファラデーの測定器が感度不足だっただけで失敗したとは考えにくくなりました。
 ファラデー当時は被覆電線など無くて「むき出しの電線(針金)」で実験していたし,まだイオンや電池の仕組みも良く分かっていなかった時代です。ファラデーは電極と電線の接続に半田を使っているようなので,そこが局所的に電池になったのかもしれないし,日本の川と違ってテムズ川の流れが緩やかすぎたのかもしれません。
 私も電極が電池にならないように,銅板と銅線の接続には半田は使わず,真鍮ボルトでつなぎました。ボルトが水につからないようにしても電流値には変化がなく,電極を水に付ければすぐに電流が生じました。
 水の流れの反転の確認が必要だったのも,電池の可能性を排除するためです。
 いずれにしても再現実験からは予想以上の電流が流れることがわかりました。
 ファラデー自身は「針は常に偏向した」と結果を書いてますが、「不規則な変化」で「期待した電流は得られなかった」として、最終的に失敗と判断しています。しかし私たちの実験では電流は安定しており、針の振れにも一貫性がありました。
 いったいなぜファラデーは実験を失敗と判断したのか?謎が残りました。→この問題の答は「この記事」をクリックしてください。
 

参考文献

1.中田修平「ファラデー「電気の実験的研究」」(原著から学ぶ科学技術講座第8回テキスト),2018.12.22
2.『Faraday's Diary Vol.I』(初版1936,ペーパーバック版2008)
1820~1832の日記をまとめた巻です。



3.ファラデー『電気実験 上巻』(古典化学シリーズ10,内田老鶴圃,1980)
4.Giles Lipscombe, Jordan Penney, Roger Leyser, Hayley Jane Allison,「A5_4 Water Under the Bridge」,University of LEICESTER Physics Special Topics,2014.11.14

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