X線を霧箱で見る その2
ちょうど1年前に、このブログで「霧箱で見たX線」を紹介しました。
その後、「霧箱を発明したウィルソンは、いったいどんな写真を撮ったのだろう」と気になっていました。そこでいろいろ調べた結果、1912年にイギリスのロイヤル・ソサイエティー(王認学会)でウイルソンが初めて発表した、霧箱写真の原論文を手に入れることができました。
はるばる海を渡って届いた論文をさっそく見ると、こんな写真が載っていました。
今から100年前の写真です。これを見て私は「自分が撮った写真と違うなあ」と思ったのです。
そこで論文の本文を読むと「3mmほどに絞ったX線を霧箱に当てて撮影した」とありました。
ウイルソンは霧箱全体にX線を当てていたのではなく、細いビームにして当てていたのです。
となると、この写真はかなり拡大されたものだということになります。
そこで今年の3月にもう一回霧箱でX線写真を撮ることにしました。
そこで問題なのはどうやって拡大撮影するかという問題です。
単純に考えれば,スピンサリスコープの撮影でやったように、霧箱を接写すればいいのですが、深さ10cmの霧箱の底の方にできる飛跡をどうやって接写したらいいのでしょうか?まさかカメラを霧箱の中に入れるわけにはいきません。それは霧箱を開けなければならず、冷却ができないということになります。
そこで被写体からの距離を取って、しかも拡大するということを考えねばなりません。
そこで手持ちの機材であれこれ考えて、135mmの望遠レンズに接写リングをつけて、霧箱の外から拡大することを思いつきました。大昔に読んだカメラ雑誌か何かで見た覚えがありました。
そうやって撮ったのがこの写真です。
2013/03/28 12:21:54
PENTAX K5IIs,ISO12500,1/30秒
FA135mm(F2.8)+接写リング
絞ったX線ではないので、一面に飛跡が出ていますが、ウイルソンが撮ったものとよく似ています。
この光景はほんの1,2秒見えるだけで、すぐに拡散して霧状になってしまいました。またとても小さい飛跡なので、今まで気が付かなかったのです。
これは原子を回っている電子が、X線でエネルギーを得てたたき出されて、飛んでいった飛跡です。電子が飛んでいくのでβ線と同じです。しかし、通常のβ線は原子核から電子が飛び出すのでエネルギーが大きく、長い飛跡になります。核を回る外郭電子が飛んでも大きなエネルギーにならないので、飛跡が短いのでしょう。
やはり「最初にやった人の仕事を実際に見る」と新しい発見がありました。
参考文献(Amazonのリンクです。)
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ロイヤル・ソサイエティーの訳語について
イギリスのロイヤル・ソサイエティーの訳語ですが「王立学会」は間違っています。ロイヤルとは「王がお墨付きを与えた」という意味で,王室から予算が付くわけではありませんし,王室が設立したわけでもありません。単に「怪しい団体ではないですよ」という意味を持たせるためのものです。この学会自体は16世紀に科学好きの有志で作ったサークルのようなものです。それが現代まで続いて,権威が付いただけです。「王立学会」と訳すのは,実態とは違う間違ったイメージを与えますので,私は「王認学会」の訳語を採用しています。ロイヤル=王立と機械的に訳す人が多いですが,もっと実態を正しく表す訳語を考えてほしいものですね。