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もくじ

スピンサリスコープの発見

 1903年5月15日の「The Chemical News」に、ウィリアム・クルックス(1832-1919・英国)は、「ラジウムからわきだすものが持ついくつかの性質」という報告を載せました。
 あるときクルックスはラジウムの実験中に試料を蛍光板の上にこぼしてしまい、それを一粒一粒拾い集めていました。当時キュリー夫妻(マリー:1867-1934/ピエール:1859-1906・仏)によって発見されたばかりのラジウムは、とても高価でわずかしか手に入らなかったので大事にしていたのでしょう。
 クルックスはラジウム試料の小さな粒をルーペで探しながら、拾い集めていました。そのときです。粒が何かちかちか光っていることに気がつきました。良く見るとラジウムの粒のまわりの蛍光板がちかちかしていることがわかりました。クルックスは「ラジウムから出るものは蛍光板を光らせる性質がある」ことを発見したのです。これは〈アルファ線が蛍光板で光る〉ことの発見でした。
 彼はそれをおもちゃにしました。少量のラジウムを針の先につけて蛍光板のそばに置きます。そしてそれを筒の中に入れて、レンズで拡大して見えるようにします。彼はそのおもちゃをスピンサリスコープと名付けました。スピンサリというのはギリシャ語で「きらめくもの」という意味だそうです。
 彼はその特許で大もうけしたそうです。
 一方その発見を研究に活用したのがアーネスト・ラザフォード(1871-1937・英国)でした。ラザフォードは蛍光板でアルファ線が光ることを利用して、それをアルファ線を観測する手段にしました。この方法は「シンチレーション法」といいます。シンチレーションとは光がちかちかすることを表す言葉です。
 放射線の研究は1895年にレントゲン(1845-1923・独)が発見したエックス線にはじまります。最初のうち、放射線の研究はもっぱら写真に写ることを利用したものでした。ベクレル(1852-1908・仏)が1896年にウランから出る放射線を発見したときも、写真に写ることを利用しています。
 そんな時代のクルックスの発見は〈新しい放射線の観測手段の発見〉でもあったのです。
アルファ線が飛ぶ
 これは1913 年にアメリカで書かれた、スピンサリスコープの説明図です。アメリカのオークションサイトeBayで見つけて買いました。この絵はラジウムからヘリウム原子(アルファ線)が飛び出して、蛍光板にぶつかって光る様子を生き生きと書いています。


 ラザフォードははさまざまな放射性原子からアルファ線が、〈どの方向に、どれだけの距離を、何個飛ぶか〉を蛍光板の光で測定しました。それは放射線を一粒ずつ数えるという画期的な方法でした。
 そしてその結果、ラザフォードはアルファ線の正体の解明、原子の変身の発見、原子核の発見など多くの成果を残しました。
 蛍光板によるシンチレーション法は、霧箱以前の放射線研究の重要な手段だったのです。

参考文献

William Croookes,「Certain Properties of the Emanations of Radium」,「THE CHEMICAL NEWS. Vol.LXXXVII.,No.2269」,1903,p.241
エドワード・N・ダ・C・アンドレード,『ラザフォード』,河出書房,1967

私が持っているスピンサリスコープ

 これは私が持っているスピンサリスコープです。
スピンサリスコープ
 これは蛍光板にルーペをつけた簡単なものです。私が実験に使ったものはこれです。
 このようにスピンサリスコープは「蛍光板にルーペをつけたもの」で、とても簡単な装置です。蛍光板のそばにアルファ線を出す物質を置いて、蛍光板をルーペで拡大して観察します。
30秒×1枚s
 こんな感じに見えます。これは30秒間の光点です。中心に置いた線源からアルファ線が四方八方に飛び出し、蛍光板にぶつかって光ります。肉眼ではもっと鋭く小さな光があちこちで点滅してきれいです。さっきの絵のように「アルファ線がビュンビュン飛んでるぞ!」とイメージしてみてください。この様子を撮影した動画は「実験9」にあります。
 撮影時は蛍光板を接写拡大するので、ルーペは取り外しておきます。この装置の蛍光は大変明るく見やすいため、写真に写すことができました。実験にはこれがおすすめです。このスピンサリスコープはドイツ製ですが日本スリービー・サイエンティフィック株式会社で扱っています。価格は1万6200円です(2016年10月21日現在)。これにはアルファ線源は付いてないので、自分で用意する必要があります。
蛍光板
 これが私が撮影に使った、スピンサリスコープの蛍光板です。現在は蛍光板だけ買うことはできません。これを4枚並べて実験しました。

スピンサリスコープ
 これはアメリカの教材会社で売っていたもの。インターネットでspinthariscopeの語で検索すれば見つかるでしょう。
購入はここからです。(2017年7月27日現在)
http://unitednuclear.com/index.php?cPath=2_12&

スピンサリスコープ
 レンズをのぞくと中に光の点が点滅するのが見えます。分解できないので撮影には向きません。最初のドイツ製のものに比べると光点がややぼけていました。しかしアルファ線源内蔵なので、その点はドイツ製のものより便利です。


スピンサリスコープ
 これは蛍光板だけの製品です。アメリカ製。
購入はここです。(2017年7月27日現在)
http://www.imagesco.com/geiger/scintillator.html
使用説明では,アルファ線源を裏側に置き,前から見るということですが,私が使ったときはよく見えませんでした。あまり感度が良くないようです。観察にはルーペも必要です。撮影には全く使えませんでした。


 どのタイプを使うにしても、観察には真っ暗な部屋で目を十分に暗闇にならすことが必要です。最低でも15分は目を暗順応させる必要があります。

スピンサリスコープの実験

 この章はブログで紹介したスピンサリスコープの実験をまとめたものです。
 これらの実験で行った写真撮影にはできるだけ高感度に設定することが必要です。そのあたりは撮影データを見て参考にしてください。考え方は流星写真を撮るのに似ているように思いました。どちらも一瞬の光をとらえるという点で似ているのです。なのでできるだけ明るいレンズで高感度にするということになります。
 最近は私が使ったカメラよりも高感度に設定できるものが出てきています。近い将来、アルファ線のきらめきを動画で見ることができるようになるかもしれません。


実験1 アルファ線の光はカメラに写るか

 私が最初に行った実験です。はたしてカメラでアルファ線の光が写るか試みました。

実験2 撮影方法の改良

 撮影方法を改良して、アルファ線の光点をはっきりとらえることに成功しました。

実験3 アルファ線を磁力で曲げる(1)

 ラザフォードの実験の再現。磁力でアルファ線が曲がるか試したものです。

実験4 アルファ線を磁力で曲げる(2)

 磁石を改良して再度「アルファ線を曲げる実験」を行いました。

実験5 さらにはっきりした光の点

 撮影方法を変更して、よりはっきりとアルファ線の光をとらえました。

実験6 アルファ線を磁力で曲げる(3)

 手に入る最強の磁石を使ってついにアルファ線を磁力で曲げることに成功。

実験7 トリウム鉱石の光

 自然のトリウム鉱石のアルファ線がスピンサリスコープで見えるか試しました。

実験8 ラジウム時計のアルファ線のきらめき

 ラジウムが蛍光板を光らせる性質は、時計の文字盤の夜光塗料として応用されました。それを真っ暗な部屋で拡大してみたら?……スピンサリスコープと同じだ!
(2017.7.21)再撮影し,写真を動画にしてみました。

実験9 アルファ線のきらめきを動画に

スピンサリスコープのきらめきは静止画ではなかなか伝えることができませんでしたが、カメラや撮影法の進歩でやっと動画にする事ができました。この実験ではアメリシウムのアルファ線を使いました。




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