ラジウム時計のアルファ線のきらめき
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もくじ
夜光塗料の発明
1903年のクルックスの発見~ラジウムが蛍光板を光らせる~はスピンサリスコープというおもちゃだけでなく、実用的な発明ももたらしました。
蛍光物質にアルファ線がぶつかると光るなら、蛍光物質にラジウムを少し混ぜれば,蛍光物質全体が放射線でずっと光り続けるはずです。それが夜光塗料の発明です。クルックスの発見から5年後の1908年ごろには蛍光塗料に少量のラジウムを混ぜた夜光塗料が発明され,1913年にはアメリカの時計工場で文字盤の夜光塗料として広く使われるようになりました。
ある工場では1年間に2グラムのラジウムを使って,夜光塗料で文字盤が光る時計を生産していたそうです。
これがそのころにアメリカで作られた時計です。アメリカのオークションサイトeBayで入手しました。時計の数字12の下に書いてある文字を見ると、ちゃんとRADIUMと書いてありますね。これは「ラジウム時計」を前面に出した商品でした。
さて,この時計,本物のラジウム時計でしょうか?それというのも,数十年前はラジウムを商品名に使うことが大流行したからです。その中には名前だけでラジウムなど全く使っていないものもたくさんありました。
これはその当時のラジウムマッチです。もちろんラジウムは全く使っていません。フツーのマッチです。1900~1940年ごろは,こんな商品がたくさんあった時代なのです。
これは1914年のアメリカの新聞漫画です。アメリカの漫画家ウィンザー・マッケイ(1869?-1934・米国)がラジウムに群がる人々を風刺したものです。
新発見のラジウムには何か不思議な力があるらしいと,ラジウム健康ブームが起きたのです。日本でも1910年代にはおなじような社会現象が起きました。
ラジウム時計の実験
さてこの時計が名前だけでなく本当にラジウムを使っているなら,どうやったらわかるでしょうか。
この文字盤を薄暗い場所で拡大した様子です。少し光っていますね。
これは夜光塗料が塗ってあるので当然です。
もしもこれがラジウムの放射線によるものなら,アルファ線のきらめきが文字盤に見えるのではないでしょうか?
私はスピンサリスコープと同じ方法で,文字盤を撮影してみました。
2014/07/18 11:04:36
PENTAX K3,ISO51200,SMC PENTAX A50mm(F1.2)をリバース。1秒露光。
どうでしょうか。数字の中に光点が散らばっていることがわかります。さらに,私は真っ暗な部屋で時計をルーペで拡大して見ました。すると文字盤の数字でたくさんの光が点滅しているのが見えました。これはアルファ線が蛍光物質にぶつかった光です。予想通り時計の文字盤はスピンサリスコープと同じでした。やはりこの時計は本物のラジウム時計なのでしょう。
アルファ線は時計のガラスや金属で止められるので,外にアルファ線が出てくることはありません。また,使われているラジウムもわずかなので,ベータ線やガンマ線も問題になりません。実際測定器で測っても,平常値と変わりませんでした。
この時計は数十年前のものですが,ゼンマイを巻くとちゃんと動きました。
ラジウムに熱狂していた時代の音を聞きました。
きらめきの動画化に成功
最初の実験から3年過ぎて,カメラも性能が上がりました。今回の使用カメラはフルサイズセンサーになったPENTAX K1です。高感度に強くなったので再撮影してみることにしました。
これが3年前と同じレンズで新たに撮った写真です。
ISO51200で露光時間0.5秒の画像です。以前よりだいぶノイズが減りました。数字の蛍光塗料にアルファ線による光点がよく見えます。
さらに,今回この現象がどういうものかイメージしてもらうために,この写真を30コマ連続で撮ってパラパラアニメにしてみました。アニメーションGIFという形式です。
それが次の写真です。数字の蛍光物質の中で光がランダムに点滅している様子が分かります。これがラジウムから出たアルファ線が蛍光物質に当たった光です。
PENTX K1,ISO102400,0.5s×30コマ(クリックで拡大表示できます)
今回は1コマずつ撮ってアニメーションにしましたが,ムービー撮影はK1の動画の最高感度ISO3200でも全く歯が立たなかったので,動画で直接撮影できるのは,さらなるカメラの性能向上がないと無理なようです。人間の目にはまだまだかないませんね。
参考文献
・水津嘉一郎,『ラヂウム講話』,隆文館図書,1914
・Jack Meadows,『THE GREAT SCIENTISTS』,Oxford Paperbacks,1989,p.201
・舘野之男 訳編,『原典 放射線障害 1896年-1944年の資料から』,東京大学出版会,1988
(Amazonのリンク)
・「ウインザー・マッケイ」Wikipedia(リンク)
コメント
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- 知り合いに、零式艦上戦闘機の復元に関わっている人が居まして。
特に、計器板に関しては凄い人なのです。
当時の航空機の計器も、文字盤にラジウムを使用した自光塗料を使用していたのが有ったのですが、すでに光らなくなってる物が多いそうです。
1940年台の前半の製品ですから、すでに70年経っている訳です。
では、ラジウムが減損して放射線を出さなくなったのかと言うと、使用したラジウム226の半減期は約1600年ですから、70年経ってもいくらも減ってないはずで、計測すると放射線はちゃんと出ているそうです。
その、光らない計器板に、紫外線を当てても光らないそうです。
おそらく、蛍光物質の方が(放射線の影響か)変質してしまった、と思われます。
当時の計器では、自光ではなく、蓄光塗料を使った物も有ったそうです。
もしかしたら、末期にラジウムが無くなったのかもしれなく。
蓄光塗料の方は、今でも、蓄光後に暗くしたり、紫外線を当てたりすればちゃんと光っているそうです。
私、個人では、トリチウム(三重水素)の放射線を利用した、自光塗料のミリタリーモデルの腕時計を持っています。
おそらく、1990年台製なのですが、こちらもすでに、ほぼ光らなくなってます。
こちらの方、紫外線を当てると、ちゃんと光りますので、蛍光物質の方はちゃんとしているのですが。
トリチウムの半減期が、12.32 年で、20年も経つと、放射線が少なくなって、光らないようです。
うみほしさんの、ラジウム時計の、製造年は判るのですか?
零戦などのラジウム計器でも、光っている物も有るらしく、蛍光物質の種類とか、使用した量などで、いろいろ違いが出ているかもしれないそうです。 -- 鷲 2017-12-18 (月) 19:16:03 - 貴重なお話ありがとうございます。私の時計の製造年は分かりませんが,この会社は1950年頃までラジウム時計を売っていたようです。ラジウムが無くなることはないですが,蛍光物質の方がアルファ線の打撃を受け続けて劣化してしまいますね。それでもこの時計は数十年たってもまだ光りますし,ゼンマイを巻けば動きます。トリチウムライトは私のサイトでも紹介しています。寿命は10年程度のようですが,これも蛍光物質の耐久性も大きいでしょう。 -- うみほし 2017-12-18 (月) 19:17:01
- ラジウム時計の方、1950年ころまでしか製造してないと言う事は、それより古いはずですね。
零戦の計器と、大差ない時間が経過しているはずなのですね。
それで、まだ、ちゃんと光っているという事は、何かしら、長持ちする秘訣が有ったのでしょうね?
製造した当時に、そこまでは考えてないと思いますが。
何かが違うのでしょう。 -- 鷲 2017-12-18 (月) 19:18:01 - ラジウム226が崩壊でアルファ線を出すのに対して、トリチウムはベータ線ですから、その破壊力にも差があるのでしょうか?
ラジウムに関しては、崩壊後の核もまた、さらに放射線出しますし。 -- 鷲 2017-12-18 (月) 19:32:09 - 破壊力はアルファ線の方が何十倍も強力です。アルファ線用の蛍光板はベータ線ではまったく光りません。
パワーがないからです。さらにトリチウムのベータ線は0.018590 MeVとかなり低エネルギーです。
ラジウム226は4.871 MeVですからかなり差がありますね。 -- うみほし 2017-12-18 (月) 19:36:36 - なるほど、やっぱり、ラジウムの方が格段に破壊力があるのですね。
アルファ線用の蛍光板が、ベータ線では光らないというのも、なるほどです。 -- 鷲 2017-12-18 (月) 21:02:35
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