スピンサリスコープ(3)

Tag: 放射線 スピンサリスコープ 科学史

 その後のスピンサリスコープの実験報告です。今回はアルファ線を磁力で曲げるのに挑戦しました。
 霧箱では無く、蛍光板の光の移動で検出する方法です。ラザフォードもキュリーも主な研究は霧箱を用いていません。霧箱が実用化し自動撮影などが可能になったのは1920年頃からです。それまでは電気計でα線の電離作用の電気量で量ったり、X線で使われていた蛍光板で検出するのが主なものでした。
 アルファ線は当初キュリー夫妻が「磁力で曲がらない」報告してるほど曲がりにくい粒です。これはアルファ線が重いためです。β線が電子と同じ非常に軽いものであったのに対して、アルファ線は高速で飛ぶ重い粒子なので、よほど強い磁力が無いと曲がってくれません。
 そこでまず吸引力70kgという強力なネオジム磁石を用意しましたが、この上に蛍光板と線源を置いても、さっぱり曲がってくれません。しかもこの吸引力で何度指を挟まれたことでしょう。これは立派に危険物です。周囲に鉄製品を置いてはいけません。
 これでもだめだったので、次にとったのが「さらにもう一個強いネオジム磁石をセットして、蛍光板を上下に挟むという方法です。
磁石のセット
 下に吸引力70kgの磁石を置いて蛍光板を乗せます。
その上から固定した,もう一枚のネオジム磁石を近づけます。これは霧箱に仕込むために買った直径8cm厚さ1cmの薄型タイプ。それでも強力なので取り扱いは注意です。
 しかしこの2枚は接近させていくと、コンクリートブロックの重しもものともせず、くっつき合ってしまうのです。当然蛍光板が挟まれ、線源のラジウムも砕けました。目の前が真っ白になり泣きたくなりそうな気持ちで、渾身の力で磁石を引き離しました。
 1903年,イギリスのクルックスは暗闇で作業中に臭化ラジウムの粉を蛍光板の上に少しこぼしてしまいました。彼は虫眼鏡でこぼれた粉を探して回収しました。そのとき,ラジウムの粉から光の点が周囲に出ていること気がついたのです。当時のラジウムは高価な貴重品でした。今ではラジウムは医療にも使われなくなり,生産されてないので100年前以上に入手困難です。クルックスと同じ気分を体験しながら,ラジウムのかけら集めをしました。
 蛍光板は砕けたラジウムで汚染され,ぶつかった磁石で削られて傷だらけになりました。もう実験には使えません。(見るだけならきらめく光がたくさん見えていいですが)
 そのときは、このスピンサリスコープの蛍光板1枚しか持ってませんでした。ラジウムはなんとか復元に成功しました。
ドイツ製
 しかし蛍光板はぼろぼろで、しかも勝手に光るので、見るだけならいいですが、もう実験には使えません。しかしこのドイツ製のスピンサリスコープは1万円以上で、そういくつも買えるものではありません。
 そこで蛍光板探しをはじめました。まずやすいのでこれを手に入れました。アメリカ製です。
蛍光板
 これは蛍光板だけの製品です。丸いところの裏に線源を置いて眺めます。しかしルーペが無いと何も見えません。
 でも一応実験に使ってみることにしました。
 しかし、カメラには何も写りませんでした。蛍光板の光が弱すぎるのです。これは古典的な硫化亜鉛に銀をわずかに添加したもので、ラザフォード時代にも使っていたものです。見るだけならいいですが、写真撮影は全く無理でした。
 次に日本製のこれを試してみました。酸化アルミニウム系の蛍光板です。
酸化アルミニウム
 しかしこれも感度が低すぎて,全く光点が見えず、写真ももちろん無理でした。高かったのに役立たずでした(泣)
 次はこれです。
アメリカ製
 これは偶然見つけて買ったアメリカ製のスピンサリスコープです。蛍光板は硫化亜鉛+銀の昔ながらのものです。これは線源内蔵なので、暗いところで目を暗順応させてルーペをのぞきこめば、点滅する光点がいっぱい見えます。でも写真用には使えません。
 結局、以前から紹介してきたドイツ製のものの蛍光板が最も光点が明るく、写真にも写るので、日本の代理店に蛍光板だけ消耗部品として売ってくれるようにお願いしてみました。
 「ドイツの本社に問い合わせてみます」ということで返事を待っていたところ「蛍光板だけでも売ってくれる」という朗報が。(現在では蛍光板だけの販売はできないそうです。面倒でも必要な数だけ本体セットを買って下さい。2016.10追記)
 それでようやく2ヶ月ぶりに実験再開。
 やはり磁石一個では全く曲がりません。
 そこで、今度は慎重に磁石を上下に接近させて、磁力線を作りました。それでもぎりぎりのところでくっつき合っては全力で引き離すということを繰り返し、血豆もいくつか作りました。
 やっと磁石のセットができたので、蛍光板と線源をセットです。1分間の露光なので、1分間に写ったアルファ線です。
 その前に比較用に磁石無しの場合を見ましょう。左右対称です。
磁石無し
SMC PENTAX 50mm(F1.2)+接写リング
K5IIs、ISO 51200、露光1分
 今回の撮影ではPENTAXで最も明るいレンズを使い,接写リングで拡大率調整しました。前回のマクロレンズより甘い画像になるのですが,光点の写りはこちらの方がずっと明るく写るので,画像処理で無理しなくていいのが利点です。それに肉眼で見た感じもこちらの方が近いです。
 そしてこれが下向きの磁力線に置いたときの写真。
磁力あり
 アルファ線はプラスの電気を持っているので左に曲がります。写真でも光点が左側に偏っているのがわかります。
 こうしてようやく実験成功!。代わりに手は傷だらけになりました(笑)。
 
 実験材料の入手方法はスピンサリスコープ(5)に書いてありますので,そちらのページを参照してください。

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コメント

  • 陽子・中性子をこの目で見たいと思い調べてこのページにたどり着きました。これだけ強力なネオジムでも簡単には曲がらないのですね…。文章から苦労からひしひしと伝わってきました。見えた時の感動はたまんなかったでしょうね。私も感動したいのでこれを参考にしてやりたいと思います。やってみて成功させるための改善点等思いついたものがありましたら教えていただけると助かります。私もこれから少し考えてみます…。


  • Re:

    >>1
     興味を持っていただきありがとうございます。この実験の最終版は「スピンサリスコープ(6)」にあります。そこで台にしている大きなネオジム磁石は最近磁場の強さをきちんと測ってみたところ140mT(1400ガウス)ほどであることが分かりました。これを1cmぐらいの間隔で2枚向き合わせて,局所的に大きな磁場を作ってようやく「光点が偏った」という感じになりました。
     もし試みるのならくれぐれも注意して実験してくださいね。非常に危険です。
     
     その後分かったことは,磁石の磁束密度は厚みが大きい方が強くなります。また磁石を鉄板にくっつけると磁束密度を強めることができます(ヨーク効果)。



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