展示用大型霧箱の作り方(2023.4.6版)
ここでは展示用の大きな霧箱の作例を紹介します。私はこの霧箱を宇宙線撮影に用いて著書に使用しました。
なお材料や基本構造はペットボトル霧箱の作り方やクリアファイル霧箱の作り方を参照してください。大きいだけで構造は同じです。
大型霧箱ではアルコールがたくさん必要です。しかし、無水エタノールは酒税がかかるためコストがかかります。そこで「変性アルコール」をお勧めします。これは無水エタノールにプロパノールを混ぜたもので,飲用できないため安価に買えます。
●エタノールより有感領域が広くなる。●エタノールよりやや飛跡が不鮮明。●エタノールに比べて刺激と毒性がやや強い(だから飲めなくて安い)。●くれぐれも換気にご注意ください。
燃料用メタノール(メチルアルコール)も安価ですが,毒性が強い劇物なので霧箱用に大量に使ったり,顔を近づけて霧箱をのぞき込むのは危険です。エタノールかプロパノールを使いましょう。
材料入手先(Amazonのリンクです。)
ほとんどのものはホームセンター等で買えますが、探すのが面倒、近くに買える店がないなどの場合は通販を利用すると良いでしょう。学校の場合はこのリストを参考に同等品を発注すると良いでしょう。
・黒起毛紙(粘着剤無し。使用前にアルコールにつけてぬるぬるを取る)
・ドライアイス 1kg×3枚。(通販では輸送途中で減ることも考慮しましょう)
・(起毛紙の代わり)黒ベルベット 生地 144cm幅 50cm単位販売
・LED用12VACアダプタ
・プラスチック段ボール
・水平調節用クサビ(霧箱は水平に置かないと飛跡がよく見えません)
作り方
(1)ホームセンターで売っているプラスチック段ボールを曲げて筒を作ります。私が作った寸法は縦15cm幅25cm深さ15cmです。これは発明者の林煕崇さんが作ったものを見て参考にしました。プラスチック段ボールは大型ホチキスで留めています。輪ゴムはこのように霧箱のサイズに合わせて大きなものを用意してください。
(2)筒に黒い起毛紙(または黒ベルベット)とラップフィルムをかぶせます。
(3)大きな輪ゴムで止めます。ガムテープで固定してもいいでしょう。
(4)その上からアルミホイルをかぶせてゴムで止めます。
長時間展示する場合、このままだと底面からのアルコールの蒸発で、中のアルコールが減って飛跡が見えなくなるので、アルコールを途中でつぎ足す必要が出てきます。最近の私は、アルミの上から養生テープで巻いてアルコールの蒸発を防ぐようにしています。(ガムテープだと片付けるときはがすのが大変でしょう。)
(5)筒の内側に黒画用紙を入れます。大きい画用紙を2つに折って内側に沿って張っていき,ホチキスで留めました。作例では画用紙の長さが足りなかったので、2枚入れてつないであります。
画用紙を2つ折りにして、壁紙の吸い上げで十分に蒸気を供給することが重要です。黒画用紙と霧箱の壁の間に「段ボール紙」を入れるとさらにアルコールの吸い上げが良くなるのでお勧めです。
(6)筒が入る大きさの発泡スチロールケースに1kgのドライアイス板を入れます。板が無ければ,細かく割って箱の中に平らに散らばらせてもいいです。霧箱が水平に乗るようにすることが大事です。
(7)ドライアイスの上にアルミ板を置きます。アルミ板は霧箱底面を全部カバーできる面積が必要です。
(8)アルミ板の上に霧箱を置きます。
(9)中に無水エタノール(またはプロパノール)を入れます。エタノールプールの深さは5mm程度。まわりの黒画用紙にもたっぷりかけておきます。火気厳禁に注意してください。
このときアルコールの偏りがなく、霧箱が水平になっているか確認します。最初のうちはアルコールが壁にしみこんでいくので、液面が下がって底面が出てしまったらアルコールをつぎ足します。
(10)ふたのラップをかぶせてゴムで止めます。しわの無いようにぴんと張ります。
(11)これは今回使ったLED照明です。通販サイトAmazonで見つけました。自動車の装飾用で12Vで光ります。作例ではLED照明をプラスチック段ボールに貼り付けています。そしてたまたま手元にあった12VのACアダプターを電源にしています。自動車用LEDなので12Vバッテリーを使ってもいいですね。電気店やホームセンターで売っている、LED電気スタンドなら、細長いものを使います。要は霧箱の横幅25cmを十分照らせるLED照明であればいいのです。
(12)照明を下向きに乗せてゴムひもで止めます。作例では100円ショップで買ったゴムひもで左右をしばっています。5分から10分程度で放射線の飛跡が現れてきます。
(13)底のエタノール液面に映った照明がまぶしいので、これを避けるように照明を手前側にもってきて覗きます。この作例では明るい部屋でも十分放射線の飛跡が見えました。このぐらい大きいと「バンバン放射線が飛んでるなあ」と観客が感動してくれました。
もっと大きな超大型霧箱
もっと大きなものを作った人がいます。その記事はこちらでご覧ください。
ここまでやれば科学館レベル!
超大型霧箱製作記事
参考文献
・林煕崇「磁場入り高感度霧箱を用いた原子物理分野の実験教材開発」『物理教育』,55 巻 (2007) 4 号
・(Amazonのリンクです。)