ローマ皇帝ハドリアヌスのカバコイン

Tag: ローマ帝国 コイン お金 カバ K1Ⅱ

以前の記事に書きましたが,古代ローマ帝国のカバコインのその後のコレクションも含めて紹介します。
 今回は皇帝ハドリアヌスの時代のコインです。ハドリアヌスは第14代ローマ皇帝(在位:117年 - 138年)です。彼は在位中に帝国をくまなく回る旅行を何度も行いました。各地の国境を確定し,駐留する軍団の状況を確認し,帝国を拡張期から安定期へと路線転換させました。ローマ帝国最盛期の皇帝です。
 ハドリアヌスはローマのお風呂漫画「テルマエ・ロマエ」(ヤマザキマリ著)に登場した皇帝で,映画にもなって名が知られるようになりました。

 これはエジプト属州の首都アレクサンドリアで発行された大型銅貨です。500円玉より大きく重いです。銅貨としては最高額です。エジプトの通貨単位は「ドラクマ」だったので,このコインは「ヘミドラクマ=1/2ドラクマ」の価値でした(*1)
ハドリアヌスのカバ銅貨
 ナイル川を擬人化した神が横たわり,肘掛けとしてカバを使っています。当時のナイル川にはカバがいたのです。カバは庶民に人気の神様として,お守り代わりの小さなカバ象がたくさん発掘されています。
 ナイル神の顔の前にはISと書いてあります。これはハドリアヌスの治世16年目を表します。

ハドリアヌスのカバ銅貨
 表はハドリアヌスの肖像です。
 エジプト属州で発行されたコインはその地方だけで使われました。

ハドリアヌスのカバディナリウス
 こちらはローマの中央政府発行の銀貨です。額面はディナリウス。この銀貨は肉体労働1日分の給料だったそうです。ローマ帝国の基軸通貨です。銀の純度は90%程度あります。ローマ帝国よりはるか遠く,シルクロード沿いに中国まで見つかっているので,広く流通していたことがわかります。
 銅貨と同じテーマの絵柄で,横たわったナイル川の神の右に口を開けたカバがいます。小さいコインなのでちょっと模様が不鮮明。
 ハドリアヌスのエジプト旅行の思い出に発行されたものです。彼はエジプトが気に入って何度か旅行に出掛けて,ナイル川クルーズを楽しんでいます。そこでもカバを見かけたでしょうね。

 ハドリアヌスは同じテーマの金貨も何種類か発行しています。
ハドリアヌスナイルの金貨
http://numismatics.org
 しかしめったに売りに出てこない上,あってもお値段数万ドル(数百万円)では,とても手が出るものではありません。指をくわえて眺めるばかりです....

ハドリアヌスのカバテトラドラクマ
 こちらも銀貨ですが,エジプト属州発行の地方銀貨で「テトラドラクマ=4ドラクマ」です。最初の銅貨8枚でこれ1枚分ということになりますね。ローマ発行のディナリウスより大きくて重いですが,銀の純度では劣っているので,ディナリウス銀貨と同じ価値として使われたそうです。
 カバの下のLEはハドリアヌスの治世5年目の意味。

ハドリアヌス3コイン
 大きさを比べてみました。銅貨の大きさが目立ちます。たくさん持ってたら財布が重そう。

 カバは庶民に人気の神だったので,コインとしても親しまれたのでしょう。
 残念ながら現在のナイル川ではカバは絶滅しています。これは主に,アスワンハイダムでナイル川がせき止められて,大きく環境が変化したせいです。それに今のナイル川沿岸は大都会となっているので,カバが住める環境ではないでしょうね。
 古代のコインはかつてはのんびり泳いでいたナイルのカバの残像なのです。

*1 多くのオークションサイトではこのコインをドラクマとしていますが,下記文献ではヘミドラクマとしているので,David Searの見解に従いました。どちらが正しいのでしょう?

参考文献

・David Sear『Roman Coins and Their Values Volume II 』2002
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