核実験時代の結果とコープふくしまの陰膳調査

Tag: 放射線 福島 陰膳調査 核実験

もくじ

はじめに:核実験時代の検証

 私は1960年生まれです。今の若い人には想像もつかないかもしれませんが,私が生まれたころは今と比べて1万倍以上も空気中の放射性原子が多く飛んでいました。当然私も生まれる前からそのような放射線の影響を受けていました。当時は世界中がそんな状態だったので,世界的な人体実験とも言えるでしょう。その原因は原子力発電所ではなく,核兵器の爆発実験,つまり核実験のせいです。核実験は1945年の原爆発明以来2300回以上も繰り返され,爆発で空高く舞い上がった放射性原子が世界中に広がっていき,海水にも溶け込んでいきました。その結果地球の大気中にある放射性原子が今の1万倍以上に増えてしまったのです。私が子どものころは「雨に当たるとはげる」などと聞いたことを覚えています。しかし「本当はどうだったのか」私はずっと知りたいと思っていました。

気象研究所によるセシウム137原子の月間降下量の長期グラフ

 そこで本格的に調べてみることにしました。今回はその結果分かったことを紹介しましょう。
 まずその当時を振り返った長期データがあったので紹介します。気象研究所が発表したグラフです。これは1950年代の核実験時代からの観測結果です。核実験で舞い上がった放射性セシウム原子が,「一ヶ月の間に1平方キロメートルの範囲に降り積もった量(月間降下量)」を対数グラフに書いたものです。対数グラフというのは「1目盛りで10倍」になるように目盛りを付けたもので,小さい量から大きい量まで一つのグラフにおさまります。1万倍というのは「4めもり」の違いを表しています。たとえば目盛りの数字が2なら10の2乗ベクレル=100ベクレルということになります。目盛りの数字は「ゼロの数」です。
気象研究所セシウム長期グラフ
これを見ると「私の子どもの頃は大気中の放射性原子が多かったんだなあ」ということを非常に強く実感しました。当時の核実験国(国連の常任理事国メンバー)に怒りすら感じます。

追記2022.10.26改訂 3地点のセシウム137長期観測グラフ

 その後原子力規制委員会HPの観測データを使って,気象研究所のグラフの続きを書いてみました。選んだのは●の3カ所です。
3地点の場所


一番高いのは福島第一原発のある福島県双葉町のもの,茨城県(ひたちなか市)は「1950年代からの定点観測」のデータ,静岡県(静岡市)は私の住んでいる地点ということで選びました。縦軸は気象研究所のグラフと同じ対数目盛です。
 データの出典は「環境放射線データベース」です。
月間降下量2022

 静岡県のグラフが途切れているところは「検出限界以下」です。近年は検出限界以下が続いています。茨城と福島は10年たったので,そろそろ元に戻っているかと予想していましたが,私の予想は外れて,まだ事故以前の状態には戻っていません。現在はまだ核実験時代のレベルにあるという状況です。
 これはベクレルで描いてあるので,数字がやたらとでかくなります。ベクレルという単位は「原子一個一個を数えている」ようなものなので,すぐに膨大な数字になってしまいます。そのままではイメージできないので,「放射線を浴びた量(放射線被曝量)」に直す必要があります。

ホールボディカウンターによる内部被曝検証結果

 では,その「核実験の結果」である私が生まれたころの高い放射線の時代の私自身の被曝量はどうしたら分かるのでしょうか。もう50数年前のことです。今の福島県のように住民の放射線被曝量を測っていたわけではないので,直接的には分かりません。しかし,私は「そういう問題意識で研究したデータがあるのではないか」と考え予想される論文を捜してみました。その中で東海村の(独)日本原子力研究開発機構・研究技術情報部・情報メディア管理課の図書館司書の方に捜してもらい論文が見つかりました。ここの図書館には放射線関係の文献が豊富で,このような捜し物には非常に便利です。
 そのグラフがこれです。
核実験の体内セシウム量
カリウム
 このグラフは内山正史,「ホールボディカウンティングと日本人の放射性セシウムによる内部被曝線量」(『放射線科学』vol.34 No.6,1991,p.169-170)から取ったものです。グラフの最初が1964年から始まっていますが,1963年秋に放射線医学総合研究所にホールボディカウンターが入り,人間の体内の放射性原子の量を測ることができるようになりました。それを使った研究がこの論文なのです。ホールボディカウンターは鉄で囲まれた部屋に置いてあり,自然放射線ができる限りはいらないようにして,人間の出すガンマ線を測定し放射性原子の種類と量を測るものです。
 まず図3のグラフから,私が4歳の1964年の時にはすでに体内の放射性セシウム原子の放射能の大きさは500ベクレル程度あったことが分かります。これは日本中(世界中?)が同じような状況だったので,私の両親も同じような状態だったでしょう。私は生まれる前からかなりの放射性セシウム原子の放射線を浴びていたことは確実です。
 またこのグラフから1986年のチェルノブイリ原発事故のピークの影響も分かります。被曝量は「ベクレルのグラフの面積」に比例するので,一時的ピークよりも,20年間の核実験の影響の方がずっと大きかったことも分かります。やはり核実験というのは地球規模で迷惑な行為だったと言えるでしょう(この結果「ゴジラの出現」という社会現象もありました)
 内山さんの核実験時代の研究結果からは,降下量が減ると急激に体内セシウム量が減っているので,影響はピーク時の一過性と考えられます。今回の場合は私の子ども時代よりも食品の管理が行き届いているので,問題は起こらないと考えられます。

私の世代はどうして何ともなかったのか

 ここまで核実験時代のデータを見てきました。では,その結果私や同時代の友人達への影響はどうだったかといえば,誰も放射線障害を起こしていません。
 それも内山さんのグラフから理由が分かります。1964年~1976年の間の積算被曝量は76マイクロシーベルトです。これは日本人の平均的な1年間の食品被曝量である800マイクロシーベルト(『新版 生活環境放射線(国民線量の算定)』原子力安全研究協会,2011年12月より)にまったく及ばないわずかな量です。
 セシウムが500ベクレルを記録した1964年の1年間でも、内部被曝は22µSv/hでしかありません。
 これを図2のグラフ「体内カリウム量」と比べてみましょう。放射性カリウム原子は広く自然界に存在し、食品からも日々取り入れています。カリウム原子は生物に必要な成分なのでこれを減らすことはできません。カリウムからの被曝量はほぼ一定で160マイクロシーベルト程度で推移しています。核実験のセシウムよりも,自然に含まれる放射性カリウム原子などの影響の方がよほど大きかったのです。これなら私たちが何ともなかったのもうなずけます。核実験も自然放射線の前には影響がかすんだのでした。(だからといって核実験場で大きな被害を受けた近隣住民や,実験海域で巻き込まれた多くの漁船の乗組員への核実験実施国の罪は無くなりませんが)
 またこのグラフでは1964年以降急激に体内セシウム量が減っています。これは1964年の大気中の核実験禁止条約の効果です。条約後降下量は少し減っただけですが,セシウム原子は塩分(ナトリウムやカリウム原子)と同じで蓄積せず、どんどん体外に出て、入れ替わっていくことも分かります。
 さて目を転じて現在の福島県での放射線の影響も考えてみました。
長期グラフで見ると1960年代末と同程度ということは,私が子どものころと同じように,体内セシウムレベルも私の子どものころと同じになるのかどうか,ということが問題になります。
 これは「そうならない」と予想しました。
 その理由は核実験時代と福島事故後の食品の規制の違いです。私の子ども時代は「世界中に核実験の汚染があった」ので,規制しようとすれば「世界中の食品が対象」ということになり,規制のしようが無かったでしょう。対して福島の事故では,まず事故直後に茨城と福島県で「生乳の廃棄」がありました。それは震災で保管設備が破損したからですが,震災で流通がストップしたことが,結果的に事故直後の食品流通を止めたことになるでしょう。その後の放射能検査結果から食品の出荷制限が行われ現在に至っているわけですが,問題はそれが「機能しているかどうか」です。これを知るにはきちんとした継続的データが必要です。それが後に示す「コープふくしまの陰膳調査」の結果です。

コープふくしまの陰膳調査2012~2021

 私の予想を検証するデータの一つが「コープふくしま陰膳調査(かげぜんちょうさ)」です。陰膳調査というのは「食事を作るときに1人分よぶんに作ってもらう」調査で日常的な食事の状況を調べるのに使います。給食センターなどでも食中毒の調査に使うように「陰膳の作成」が義務づけられています。何かあったときに過去にさかのぼって食事の調査ができるわけです。
 コープふくしまでは事故後1年後の2012年4月に「会員100世帯分のおやつもふくめた食事の調査結果」を公表しています。100世帯は福島産の食品を中心に食べているということです。事故1年後は事故の影響を受けた食品が出回っていると考えられるころです。ではその結果はどうだったのでしょうか。
陰膳調査2012年4月
 これがその結果です。100世帯のどの家でも一番多いのは放射性カリウム原子です。これは自然にどこでも誰でも食べているものです。セシウム原子と同じく1回だけベータ線を出して違う原子に変身します。変身後は放射線を出さない原子になります。一部の家庭でわずかにセシウム原子が見つかりましたが,これなら圧倒的なカリウムの影響と比べてなんら関係ないと言えるでしょう。この量のセシウム原子が悪いならカリウム原子はもっと悪いはずで,それは自然の実験結果に矛盾します。どの原子が出そうとベータ線はベータ線です。
 2014年3月の結果でもセシウム原子はほとんど無いのは同様です。
2014年3月陰膳調査
 今でも「福島のものは食べてはいけない」という人たちがいますが,それは本当でしょうか。私はこうした結果をみれば「流通しているものは何の問題も無い」ことは明らかに思えます。1960年代の核実験時代と違って,汚染が食品から広がっていないのは,陰膳調査の結果から明らかです。規制が効果を出していると考えることができ,私の子ども時代のような事は起こらないと考えることができます。これ以上気にするのはまるで「無菌状態が良い」というのと同じで,カリウム40を削らないと被曝量は減りません。これは自然にはあり得ないことをすることになります。
 今,時々問題になるのは「特異的に放射線が多い人」が発見されることで,これはほとんど自分で山のキノコや山菜,イノシシなどを食べていた人です。このような自給自足が原因と思われる人はある程度予想ができ,このような可能性のある人を集中的にチェックしていくことが今必要と思われることです。それ以外の「市場に出ているものをたべている人々」は,事故1年目から全く心配する必要は無かった言って良いと思います。これは1960年代やチェルノブイリ事故の教訓が生かされていると思えました。
 なおコープふくしまでは「1ベクレル」まで放射線を測定するため,1サンプル当たり14時間の測定時間をかけています。これは「測定の法則」として,「微少な量を測ろうとするほど,必要な測定時間は長くなる」からです。100世帯分の測定には膨大な時間がかかります。現場の人たちの努力によって,食品の管理が機能しているわけです。私はこれからも福島の産品を応援して,微力でも福島県の復興につながればと思っています。

追記2017.1.20 最近の陰膳調査結果

 最近の陰膳調査結果を紹介します。
2016年3月発表
 どこにもある放射性カリウム以外は検出限界以下です。これを怖いというなら,地球上の何も食べられません。福島県で流通している食材は問題ないと結論できます。これ以上は根拠無き誹謗中傷でしかありませんね。

追記2021.5.25  2021年陰膳調査結果

2021年発表の陰膳調査です。以前と変わらず検出されるのは放射性カリウム40のみ。何の問題も無しです。
陰膳調査2021ふくしま

ホールボディカウンタによる福島県民の内部被曝検査結果

福島県が行っている県民の内部被曝検査結果が公表されています。これは事故のあった2011年(平成23年)6月から2021年(令和3年)現在まで続いています。
 結果は最大3msVで,核実験時代の結果を比べてもまったく問題の無い被曝量だと思います。コープふくしまの陰膳調査と合わせても当然の結果でしょう。
・平成23年6月~令和3年7月 検査人数 345,988人
検査結果は以下の通り。
預託実効線量(*)
・1mSv未満 345,962人
・1mSv 14人
・2mSv 10人
・3mSv 2人
データ出典は,
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-wbc-kensa-kekka.html
(*)預託実効線量というのは,体内に取り込まれた放射性原子の出す放射線の影響をシミュレーションし,取り込んだ時から70歳までに被曝すると予想される数値です。大人の場合は50年間分を計算します。単位はシーベルトなので,影響評価はシ-ベルト単位で表した人体影響と同じ数字で比べることができます。


チェルノブイリ原発事故のグラフ(2019年2月22日改訂)

 次に旧ソ連(現在のロシア)の起こしたチェルノブイリ原発事故の体内セシウムグラフも比べてみることにします。これは鉄腕DASHという番組でTOKIOの達也さんが旧ソ連の一部だったベラルーシの村を訪れたときの番組で偶然発見して,記録しておいたものです。ベラルーシは最も多くの放射性原子をチェルノブイリ原発事故で浴びた国です。
ベラルーシのセシウム内部被曝推移
 このグラフは私がテレビからキャプチャした画面データを元に,私の本を作ってくれている編集者の方が書き直してくれたものです。
 このグラフで特徴的なのは「季節変化」です。
 番組のナレーションによれば,これは「森のキノコを採って食べる習慣」によるものだそうです。キノコを食べる季節にはセシウムが増え,それ以外の時期は体内セシウム量が減ります。これは「放射線の被曝を避ける教育の不徹底」を意味するでしょう。
 また日本と違うのは「市場に出ている食べ物が生活の中心では無い」という,食品流通の違いがあると思います。また事故後の長い空白期間の存在は「国が崩壊したという異常事態」の影響でしょう。
 でも最近は減っているとはいえ「事故のあと20年以上たっても未だに季節変化がある」というのは,やはり人々に知識の普及が不十分であることの証明に思えます。この村の森には「キノコを食べてはいけない」という注意標識があるのですが,現実は森のキノコは食べられ続けているのが明らかです。これは「自給自足中心」という生活を変えられない経済的事情があるのでしょう。グラフでは「食品の管理はできていない」と考えられます。
 この事例は「放射性物質の管理ができないとこんなグラフになる」という貴重な結果だと思います。
 チェルノブイリのグラフを,日本の1960年代の「成人男子一人500ベクレルで76マイクロシーベルト被曝」というデータと比べてみました。
 最後の2010~2011年のピークが100ベクレル/kgなので体重60kgの人なら,このとき体内にあったのは6000ベクレル程度となります。だいたい日本の核実験時代の10倍以上だろうということになります。もちろん,限られたデータの,大雑把な見積もりなので,これで何かの結論は出せませんが,核実験の影響と比べて,チェルノブイリの汚染がいかに大きな規模だったのかは分かります。
 それでもはっきりしているのは「長い空白」と「食品被曝の季節変化が今でもある」ということの意味を考えさせるデータでした。

 私はこのような「結果」から「日本の事故直後からの食品管理のすばらしさ」を感じたのですが,皆さんはどうでしょうか。福島の原発事故についてはさまざまな「予想」が出ていますが,そうした「予想」のどれが正しいのかどうかを見極めるには,結果がはっきりした過去のデータをきちんと評価して,その結果から考える必要があるでしょう。

追記2022.10.25改訂 牛乳の長期データで検証

 「環境放射線データベース(食品)」から,食品の放射能検査についても調べてみました。というのも私が子どものころは体内セシウム量が多かったということは,食品中のセシウム量も当然多かったと考えることができるからです。そこで長期統計データをデータベースで捜して次のようなグラフを書いてみました。
生乳静岡
 私の子どものころを知りたかったので,静岡県のデータを描いてみました。生乳というのは牛から絞ったままの牛乳です。これが一番長期にたどれたので採用しました。グラフが始まる私が3才のときから12才まで,今よりずっと牛乳の放射能が大きかったことがわかりました。核実験はこのグラフの以前から非常に盛んでしたから,それより前の放射能はもっと大きかったのは確実です。改めて「私が子どものころはすごかったんだなあ」と思いました。子どものころたくさん牛乳を飲みましたが,たくさんの放射性セシウムも飲んでいたわけです。このグラフ以前の核実験降下物量を考えると,私が生まれたときから結構な量の放射性セシウムが生乳に含まれていたはずです。
なお,放射性ヨウ素については「検出せず」だったので描きませんでした。茨城も同様です。
 こうなると福島原発事故のグラフも見たくなります。残念ながら静岡県のは2009年までしかデータベースになかったので,いろいろ捜したところ茨城県のデータは2020年まであったので,事故前後を含めたグラフを描くことができました。
茨城牛乳1963-2020

 核実験時代がすごいのは静岡県と同じですが,福島原発の影響も見えています。しかし,それは〈私が飲んでいた核実験時代レベルの牛乳には全く及ばない〉ということも分かりました。
 この長期統計で分かるのは〈核実験時代を超える汚染はない〉ということ。その核実験時代でも最大値は1リットルあたり10ベクレル程度であることです。
 牛乳1リットル(=1kg)には,もともとカリウム40の放射能が50ベクレルあるので,核実験時代でもセシウムからの被曝は無視できる程度にしかなりません。
 陰膳調査の結果からわかるのは,毎日の食事で数十ベクレル程度の食品放射能の変動はあるのがあたりまえであるということです。我々の世代が核実験の降下物から影響を受けなかったのは,日々の自然変動に吸収される程度の「放射能」でしかなかったからでしょう。核実験の放射線の影響については,我々の世代が実験結果なのです。
 こういうことは「今だけみてても分からない」ことです。過去の結果をきちんと評価するというのは,今と未来を考える第一歩だと思います。
 これらのデータは誰でも見ることができますから,皆さんも自分の県のデータでグラフを描いてみてはどうでしょうか。

追記(2021.6.12)核実験時代の日本の白米に含まれていた放射性原子

 核実験時代の食品汚染のデータを新たに見つけたのでここに引用紹介します。 このグラフは核実験時代の1959年から1995年の間の,全国の国公立15農業試験場圃場で生産された白米の90Srと137Csの分析結果を書いたものです。既に紹介した生乳の傾向と同じで1960年代に最大値となって以来,下がり続けています。

白米
 縦軸は対数なので10倍ごとに等間隔の目盛りです。測定単位はmBq/kgです。Bqはベクレルと読み放射能の単位です。1Bqは「1秒間にその物体から1個の放射線が出る」という意味です。たとえば私の子ども時代の1960年代は1000mBq/kg=1Bq/kg程度なので,白米1kg含まれていた放射性セシウム原子から1秒間に1個の放射線が出たという意味になります。
 このグラフからは私の子ども時代は1990年代よりも2けた=100倍も放射性セシウムもストロンチウムも多かったことになります。つくづく私の世代は核実験の放射性原子にまみれていたんだなと思いました。
 それでも1kgあたりわずか毎秒1個程度の放射線なので,食品に自然に含まれている放射性カリウム原子の出す放射線に比べたらたいしたことは無いということはハッキリ分かります。「私たちの世代がなぜ何ともなかったのか」という結論は変わりません。
●データ出典「わが国の白米中の90Srと137Cs含量の長期間の推移」

追記2017.7.7 福島高校による調査結果

 この記事も長くなりましたが,継続した観測こそ「何が本当か」を明らかにする唯一の道だと思います。
 福島高校の生徒による被ばく調査の結果が公表されています。
個人線量比較
 これは高校生が立ち上げたサイトを通して,各国の高校生200人に協力してもらって個人線量のデータを集めた論文のデータです。
 明らかに福島県に住んでいても放射線被ばくが多いということはありません。この結果はこれまで検証してきた核実験時代のデータや陰膳調査の結果とも矛盾していないということも,重要です。
 2011年当時,NHKがある中学生が「子供を産めなくなるか心配」というニュースを流していました。私はそのときから答えは予想できていたのですが,再度はっきり言いましょう。「福島県でも安心して子供は産めます」と。

福島に生まれたことを後悔する必要はどこにも無い

という高校生達の結論は,もっと多くの人に知ってほしい事実です。
 これらの結果は農水産物の生産・流通にかかわる人達の努力の成果でもあります。日本の放射線検査態勢はきちんと結果を出しているという証拠ですね。

追記2021.5.24 NHK特集 被曝後の森10年目の記録のメモ

2021年5月4日21時からのNHK特集で福島の原発事故後の10年の動植物の研究成果が紹介されました。いくつか興味深い実験結果がありました。番組見ながらとった記憶用のメモを載せておきます。

・マツの木のオーキシンが抑制され,主幹が伸びず側枝ばかりが成長する異常の出た木がある。
・ニホンザルの放射性ヨウ素の被曝量が推計できて,1000mGy(1Svの大量被曝に相当)以上の被曝個体の甲状腺には今のところガンは見つかっていない。
・イノシシの慢性的な弱い放射線被曝の影響を調べた結果,小腸で免疫細胞を活性化するサイトカインが多くなっている。免疫力が強まっているが,特に異常は見当たらない。
・ニホンザルの染色体の転座という変異が減少している。つまり染色体の変異は回復している。
・新しく芽吹いた木には放射性セシウムが予想より少ない。既存の木が吸収した結果ではないか。

野生動植物は放射性物質汚染地域にそのまま住み続けた10年間の放射線被曝の結果が出ていますが,人間は避難して,ここまで大きな放射線は無かったので,これまでの子どもの甲状腺ガンが増えるという予想や,放射線ホルミシスの仮説への手がかりになりそうです。

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霧箱で見える放射線と原子より小さな世界

きみは宇宙線を見たか

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コメント

  • 月間降下量をアップデートしました

    月間降下量のデータを2014年6月までのものにアップデートできたので,その結果を受けてグラフと考察を書き直しました。今後もデータウォッチを続けていきます。別ページで書くと分散してしまうので,今後この件についてなにか新事実発見があれば,このページで更新していくつもりです。


  • 「環境放射線データベース」が更新されています

    8月末に,本文で使った「環境放射線のデータベース」が更新されていました。月間降下物は2013年3月まであります。食品も2013年のデータがのっているものもありました。原子力規制委員会のデータも7月分まで出ています。興味のある人は追跡調査してみるといいでしょう。


  • 福島高校の結果を追加

    福島高校の被ばく調査結果を追加しました。


  • 3地点の放射能調査と牛乳のセシウム調査をアップデート

    3地点の放射能調査を最新データでアップデートしました。
    茨城県の生乳のセシウムについても2014年までデータがあったので追加。
    最近の測定では全国的にほとんど「検出せず」です。
    最近北朝鮮の戦争が取り沙汰されていますが,もしも本当に核戦争になったら,このグラフの続きがどうなるか?そいう懸念もあってデータ更新しました。杞憂に終わればいいのですが。


  • こんにちわ はじめまして

    関西で原発/放射能の情報発信をしています。http://save-life-action.org/ 私の周辺には放射性物質に敏感な人たちが集まりがちで、ここまで私の知識不足で、誤りとまではいわないまでも偏った情報を流していたと感じています。核廃絶の思いは変わりませんが、正しい知識を共有したいと思っています。何卒お力添えください。
    とりわけ貴ウエブサイト内「核実験の頃からの茨城県あたりのセシウム降下量や原乳」のグラフはぜひ引用させていただければと思っています。よろしくお願い申し上げます。


  • Re: こんにちわ はじめまして

    >>9 コメントありがとうございます。この記事の引用については,出典を明記してあれば,問題ないです。どうぞご利用ください。


  • 3地点の放射能調査を更新

    2018年5月までのデータでグラフを更新しました。


  • 2018年度の陰膳調査結果が出ています。

    コープ福島による2018年度の100世帯陰膳調査結果が,2019年3月7日に発表されています。
    もう,いちいちグラフは載せませんが,いつでもどこでも存在する放射性カリウム以外は検出無しです。
    詳しくは,
    https://www.fukushima.coop/kagezen/2018.html
    をご覧ください。


  • 福島県の内部被曝検査結果を追加しました

    新しいデータとして、福島県の内部被曝検査結果を追加しました。



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