ローマ帝国コインに見る「人から神へ」の変化

Tag: ローマ帝国 お金 貨幣 歴史

 今回も個別の話題ですが、コインで分かる大きな時代区分の話です。
 まずこの2枚の写真を見比べてもらいましょう。
多神教時代

キリスト教時代

 1枚目はローマ帝国が多神教だった時代のもので、2枚目はローマ帝国が分裂し、西ローマ帝国が470年代に滅び、残った東ローマ帝国がキリスト教国として繁栄していく時代と、東ローマ帝国も衰退が進み、新たに独立したブルガリア国王のコインです。
 なお当時は東とか西とかいう概念はなく、あくまで「ローマ帝国」一つが存在していただけです。ただ実質的には「西方の領土」が消滅したわけです。

 このコインの前皇帝ユスティニアヌス1世(在位527-565AD)は、529年に「キリスト教以外の思想は禁止する」という命令を発して、「聖書に書いてあることだけが真実である」とした皇帝です。そして東ローマ帝国領内のギリシャのアテナで教えられていた伝統の哲学も「神に反する間違った思想」として弾圧されます。まさしく「科学の敵」です。
 「聖書に書いてないから間違っている」というなら、もうノーミソは不要で考えることは必要ないというのに等しいわけです。ギリシャ以来の科学・哲学の伝統はここで一旦途切れてしまいます。以後古代ギリシャ・ローマの思想は新興勢力のアラブ世界に伝えられて発展していきます。
 こうして「ローマ帝国」は名前だけで実質全く別の国として一神教の国になったわけです。周辺諸国もキリスト教一色にそまり、今のヨーロッパ世界のもとになります。
 さて、この変化はコインにも明らかに出ています。「人間から神へ」時代は変わり、コインの人物描写は誰なのかわらないような抽象的表現に変わりました。
 コインの裏もキリスト教を表すものだけとなりました。

 古代以来続いていたオリンピックもついにここで途切れ、「オリンポスの神々にささげる」オリンピックは、「キリストの誕生を祝う」行事、つまりクリスマスに取って代わりました。

 「人間から神へ」と中心が移ったのがコインでよくわかります。「多神教から一神教へ」というのは、「一つの神しか許さない」という排他的な思想に陥り、「考える自由の消滅」でもあったわけです。これはローマ帝国の大きな時代区分となりました。
 「考える自由」の復活はさらに時代を下ってルネッサンスから近代科学の誕生まで待たねばなりません。

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