ラジウムと確定するまでの道のり
先日のブログでスピンサリスコープを紹介しましたが、そのとき使った線源の正体がようやくわかりました。この線源は偶然手に入れたものですが、はじめはよくある「モナズ石」とか「トール石」とか、トリウム系の線源だろうなと思っていました。
見かけはマッチの頭のようなものです。針が刺してあるゴムは劣化してぼろぼろ。相当古い感じ。
まず、ガンマ線を測ると、2~3μSv/hほど。まあ、これも霧箱用線源ではよくある値です。スピンサリスコープではアルファ線多数。マッチの頭ほどの小さなものですが、なかなかの放射能。
次に霧箱に入れてみました。
2012/08/21 17:46:18
たくさんのアルファ線で放射能の強さを示しています。
ここまではまだトリウム系と考えていました。それで4時間ほど撮影して、線源を取り出しました。あとは普通に部屋の自然放射線を撮影しとこうかなと思ったわけです。
ところが、びっくり。
2012/08/02 22:12:46
この写真は5時間後の写真ですね。こりゃ一体どうしたことだ?となったのです。まあ、これはラドンでしょう。でも前にトリウム入りマントルから取ったラドンを撮影したときは、こんなに多量にアルファ線は出ませんでした。こんなに短時間でラドンがたまるのは何でだろう?と疑惑を持った最初でした。
それに飛跡を観察するとトリウムのラドンのV字型では無いのです。
ちなみにこれがトリウムのラドンのV字型飛跡。
2012/08/30 09:35:29
一方問題の線源からの飛跡はまっすぐシュッと飛ぶアルファ線。
2012/08/02 22:06:19
明らかに放射線の出方が違います。トリウム系のラドンは半減期55秒でポロニウムになり、それも0.15秒の半減期ですぐにアルファ線を出します。だからV字型の飛跡となって連続的にアルファ線を出します。しかしウランーラジウム系のラドンは半減期がもっと長く,ゆっくり変化するのでV字型で連続変化はしません。
この時点で、この線源はウランーラジウム系だろうと判断しました。放射能の強さや暗闇で光ることからラジウムではないかと考えました。
これがその光です。
2012/08/27 19:05:01
青白く光っています。
あとはガンマ線スペクトル分析しか無いということで機材を借りて測定。
これがその結果です。研究仲間のK氏の援助も得て分析。
これが決め手になりました。
ちなみにウランの場合はこんな感じ。
人形峠のウラン鉱石から作ったものです。
一方トリウムはこんな感じ。
これはトリウムータングステン電極です。溶接用。
明らかにスペクトルが違います。
これでなぞの線源はラジウムと確定しました。
キュリーさんが見たラジウムの光を見ることができて幸運でした。
ラジウムの霧箱の動画はこちらを→ラジウムの放射線
ラジウムから出るラドンの霧箱動画はこちらを→ラジウムのラドン
参考文献(Amazonのリンクです。)
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感動しました。
キュリーさんがみた、あの光を見ることができて本当に感動しました。
ぼんやりだけど、あんなにきれいに光るんだな~って。
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古い霧箱の線源と判明
その後の調査で、50年ぐらい前に販売されていた、島津理化のウィルソン霧箱WY-135に付属していたものとわかりました。
しかし、その後の様々な実験に使ったら、頭がぽろりと取れてしまいました。さびさびの針が持たなかったようです。島津に「今でも補修部品として手に入りますか」と聞いたのですが、残念ながら販売が終わってずいぶんたつので、入手できないということでした。残念。