Tag: 霧箱 放射線

空き缶式霧箱

 空き缶で霧箱を作る方法は,私は京都大学の科学講座で体験したことがあります。京都大学では「京大式」と呼んでいました。(京大式の構造図は霧箱の原理 にあります)
 残念ながら,その霧箱は「放射線を出すもの(線源)」が無いと放射線は見えませんでした。
 しかし,線源無しで自然放射線が見える霧箱を,もしも空き缶で作ることができれば,従来の林式霧箱で必要だった,ペットボトルを切ったり,クリアホルダーを丸めたりという作業や,底面をラップやアルミホイルで作る必要がなくなり,作業が簡単になります。
 今回試しに林式の霧箱と同じ構造で,空き缶の霧箱を作ってみたところ,かなり自然放射線が見えたので紹介することにしました。

今回使った缶

材料の空き缶
 大きい方はナッツ缶,小さい方はお菓子の缶です。後はペットボトル式霧箱と同じです。直径の大きな缶を使います。コーヒー缶でも良いでしょう。高さが足りないと,上下の温度差が作れず,放射線が見えません。8cmはギリギリでしょう。
材料
 あとは黒い起毛紙と黒画用紙,ラップ,ドライアイスが必要です。材料の入手についてはペットボトル式霧箱のページを見てください。

作り方

1.底に合わせて切った起毛紙を入れる。

注意

今回使った起毛紙はエタノールがかなり黒くなり,のりが溶け出していました。そうするとエタノールにとろみが出て蒸発が妨げられ,放射線が見にくくなります。新品の起毛紙は使用前にエタノールにしばらくつけてから,水で良く洗って乾かしてから使用しました。霧の出方が悪いときは起毛紙を洗ってみてください。2回目からはそのまま使えます




2.黒画用紙を丸めて壁面にします。エタノール吸い上げ用なので,2重にした方が良いです。



3.この中に無水エタノールを起毛紙が完全に沈む深さ(3mm~5mmぐらい)に入れます。黒画用紙にもエタノールをかけます。(詳細はペットボトル式霧箱を見てください。)



4.ラップでふたをして密閉し,ドライアイスの上に乗せます。缶は水平を保つようにします。



カップ麺の容器にドライアイスを入れるのも良い方法です。


観察

1.缶の中に雨のようにエタノールの霧が降ってきたら,LEDライトで中を照らして底面付近の霧を見ます。



2.宇宙線やベータ線,アルファ線の飛跡が見えました。実験成功です。





実験結果

この霧箱で見えた放射線の数を数えてみました。
大きい缶:1分間に67個。
小さい缶:1分間に63個。
 ペットボトルや,クリアホルダーで作ったものと同レベルで自然放射線が見えたという実験結果です。
 ただ,長時間運転では,深い方が若干安定しているように感じました。高さが足りないと金属の熱伝導で,上から下まで冷えてしまい,温度差がうまくできなくなると考えられます。このため小さな缶ではよく見えるのは1時間程度と,やや短めになりそうです。またドライアイスが減るのが他の材料に比べて速かったです。これらは熱伝導が良いことが原因でしょう。背の高い缶でも見えにくくなったら上半分を時々手で温めると,温度差が維持しやすいです。
 しかし,一般の人が私のように数時間も霧箱を見ることは少ないでしょうから,1~2時間観察したいだけなら十分実用になります。
 これまで試してきた結果では,長時間安定してよく見えたのは4Lペットボトルが今のところベストです。

参考文献(Amazonのリンクです。)

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