ウィルソンの膨張式霧箱を試しました

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 1897年,イギリスの科学者チャールズ・ウィルソン(1869-1956)は後に霧箱と呼ばれる装置を発明しました。ウィルソンは気象学者で「雲ができる条件」を研究していました。そのとき「人工的に雲を作る装置」を作ったのです。その装置は空気の急激な膨張による断熱膨張の温度低下で,霧箱内の水分を凝結させて霧粒を作るものでした。その装置は「Cloud chamber:雲箱」と呼ばれていますが、日本では「霧箱」の名前が一般的です。
 ウィルソンはその後,放射線が当たった空気は霧が濃くなることを発見し,霧箱を「放射線を見る装置」に改良し,1912年にアルファ線やエックス線などの飛跡写真を発表しました。その後霧箱は多くの放射線の研究者に使われ,初期の素粒子の発見をもたらしました。1927年にウィルソンはその功績によってノーベル賞を受賞しました。
 このHPでも多数の霧箱写真を紹介していますが,私は霧箱の原型である「ウィルソンの膨張箱」もぜひ見てみたいと思っていました。
 今回その実験をする機会があったので紹介します。

 これが今回使った膨張箱で、理科実験機器ををたくさん作っている島津製作所のものです。型番はWY-135で,1950年代後半から1987年まで販売されたものだそうです。この機械は60年も前のものなんですね。
膨張箱
2015/02/07 13:10:50

 下にピストンがついていて手動でノブを回して,ピストンが上昇してアクリル製のシリンダー内の空気を圧縮します。出力130Vの直流電源装置も付いていて、シリンダー上面にマイナス,底面にプラス電圧をかけています。これは自然に発生するシリンダー内のイオン(静電気)を取り除くためです。これを行うことで放射線の飛跡が明瞭になる効果が期待できます。
ピストン

 ピストンを動かす様子を動画でお見せしましょう。

 膨張箱はテープ型のLED照明を巻き付けて照らしています。
 霧箱内を湿らせる液体は,古い文献を調べて,エタノール3と水1を混ぜたものを使用しました。
 これは霧箱付属のラジウムの飛跡です。アルファ線が見えます。
ラジウム
2015/01/30 21:39:12

 動画でその様子を見てもらいましょう。キコキコ音がするのは油を差してないからです。

 
 ピストンが下がる瞬間に霧ができ,アルファ線の飛跡が見えました。

 次はアメリシウムの飛跡です。これもたくさんのアルファ線を出します。
アメリシウム
2015/02/10 19:16:27

 これも動画で見てもらいましょう。今度は潤滑油をさしたので音が静かです。

 膨張箱では飛跡が見えるのはほんの1,2秒です。昔の科学者は膨張のタイミングに合わせて自動撮影する工夫や、放射線が通過したときだけ膨張させる自動装置などを開発し、飛跡を写真に撮って研究しました。
 この膨張箱はブラケットのアルファ線による窒素原子核の破壊の証拠写真や,アンダーソンによる宇宙線の陽電子の発見など,輝かしい成果を出しています。
 残念ながらこの霧箱ではベータ線や宇宙線は見えませんでした。ウィルソンが100年前に撮った写真では、ベータ線もあるので、もっといろいろなノウハウがあったんだろうなあと推測できました。
 仕組みは単純ですが,本物の膨張箱を実験することができて,100年前の科学者の熱意が分かりました。

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