早岐瀬戸(2)ファラデーのテムズ川の実験再び

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長崎県佐世保市の早岐瀬戸(はいきせと)に来た目的は1831年のマイケル・ファラデーの実験の追試のためです。
ファラデーは1831年8月に「電磁誘導」を発見。その時のアイディアの1つが「地球の磁力線で電流を作れるのではないか」というものでした。ファラデーはそれから5ヶ月後の1832年1月に、ロンドンのテムズ川で実験しましたが、残念ながらはっきりした結果が得られず「失敗」だと書いています。
●地球の磁場で発電してみました!(1831年のファラデーの実験)

その原因は現在では「検流計の感度不足」であろうとされています。
しかし、私がこれまで追試してきた結果では、どうもそれだけが失敗の原因ではないだろうと思えました。
それから私は近くの川で何度も実験してみました。これまでの記事です。
(1)2019年3月9日
川の流れは地磁気で発電しているか?(ファラデーの再現実験)
(2)2019年3月23日
再びの実験。川の流れは地磁気で発電しているか?
(3)2019年3月30日
ファラデーのテムズ川の実験は本当に失敗だったのか?
(4)2019年4月4日
ファラデーのテムズ川の実験は本当に失敗だったのか?(とりあえず完結編)

4回にわたる考察と実験で結論はほぼ出ていたのですが、今回、非常に実験に適した場所を知ったので、最後の確認として追試を行うことにしました。

今回の実験は2022年5月15日に行いました。16日が満月で大潮期にあたり、海面変化が大きいので流れが強い事が期待されます。
これが今回の実験場「早岐瀬戸」にかかる「観潮橋」です。
一見すると川のように見えますが、これは九州と針尾島の間の海峡。れっきとした「海」です。ですから潮の満ち引きではっきりと海流の向きが変わります。
実験場
実験する海峡の幅は10mほどなので、運んだ電線はそれに合わせて短く切ってあります。
この場所の磁力線は地面に対して49°の角度で刺さってます。本来は伏角計で測るのですが、持ってないので代わりにオイル入りの方位磁石を北向きにして垂直に立てて「トントン」と軽くたたくと、このように磁石の針は斜め下を指します。
磁力線

方位磁石だけ見ていると、地球の磁力線は地面と平行に思えますが、本当は地球の磁力線は地面の奥深くの核で発生しています。そこで「磁力線は地面の中から出て、地面の中に入っていく」と考えた方が実態に合っているのです。
地球の磁力線

そこで、海水の流れがどっち向きでも、水はこの下向きの地球の磁力線を横切ることになります。海水は電気を通しやすいので、海水が流れれば磁力線を金属が横切るのと同じ事が起こり、流れと直角に電圧が生じて(正確には誘導起電力が生じる)、そこに電線をつなげば電流が流れるという仕組みです。
海水の流れる方向が潮の満ち引きで逆になれば、発生する電流も反対になるでしょう。それを確かめようというのが今回の実験です。

前日の予備調査で実験時刻を決めました。11時に引き潮、17時に満ち潮での実験です。
実験計画5月15日

これが今回の実験装置です。はるばる自宅から1000kmの道のりを運んできました。
この日はカヤックで急流下りをする人達も来ていたので、事前に実験のことを話しておきました。カヤックの人達の協力も得られて,実験は予定通りに行うことができました。
実験装置

銅板の電極を海に入れます。
実験装置2

(実験1)11時の引き潮の実験です。地元の仲間達が手伝ってくれました。
橋の上で検流計の指し示す電流の向きを腕で示してもらいました。実験中にカヤックの人達も興味を持って見に来てくれました。



引き潮実験結果




引き潮実験結果2

この結果はフレミングの右手の法則にぴったり合ってるので正しい結果です。

みんなで昼食を食べた後、流れが反転するのを待って2回目の実験です。
(実験2)17時の満ち潮の実験。
流れが逆になり、電流の向きも逆になりました。
実験成功です。



満ち潮の実験結果



満ち潮の実験結果2

最後に今回手伝ってくれた人たちです。
午前中だけで写ってない人も含めて、本当にありがとうございました。
実験メンバー

さて、ファラデーがなぜ失敗したかについてです。
私の考えでは「テムズ川の流れの向きの判断を間違えた」のだろうと思います。
ファラデーは日記には「検流計の針は動いた」と書いているので、感度不足で電流が検出できなかったという説は疑わしいです。私たちの実験でも検流計の針は振り切れています。
1つ違うのは、テムズ川の流れはゆっくりで、しかも河口から遠いので満ち潮で逆流できなかったのではないかという疑いです。これが逆ならファラデーの実験結果は間違っていないのです。
私たちの実験でも流れに渦ができて、電極を入れる場所によっては電流の向きが逆に揺れ動くことがありました。流れが明確でないと結果が正しいのか判断できないのです。その点、今回の場所は流れが明確で結果は疑問の余地なくうまく出ました。
これほどの急流でも、引き潮から満ち潮に切り替わるときに、海面は上がってきて海水が流入しているはずなのに、表面の流れがなかなか逆転しないという現象が見られました。
テムズ川のはっきりしない流れでは、なおさら表面と深層の流れが同じだったのかは疑わしいです。
ファラデーが早岐瀬戸のような場所で実験していたら、結果に迷うことはなかったのではないか?そう私は思うのです。

参考文献

『Faradays Diary, Vol. 1』

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